分野や業界にかかわらず、あらゆる現場で求められる「プロジェクトマネジメント」の役割。プロジェクトマネージャーの数は男性が女性を上回り、そのジェンダーギャップは世界共通です。
プロジェクトマネジメントのスキルを身につけ、ポジションに就くことは、女性のキャリアづくりにどう活かせるのでしょうか。
プロジェクトマネジメントの専門組織として国際的な資格認定制度や教育、グローバルコミュニティを統括するProject Management Institute(プロジェクトマネジメント協会)のソヒュン・カン氏に伺いました。
【プロフィール】
ソヒュン・カン SoHyun Kang
Project Management Institute
アジア太平洋地域 暫定リージョナル マネージング ディレクター
アジア太平洋地域の暫定リージョナル マネージング ディレクターとして、同地域の市場成長、および個人、組織、社会への価値提供を推進する責任者としてアジア太平洋地域を率いる。2014年にPMIに加入し、PMIアジア太平洋事務所をシンガポールに設立。以来、支部のエンゲージメント、ボランティア開発、企業エンゲージメント、チャネルセールス、マーケティングコミュニケーションやイベント開催などを通してチームを導き、貢献してきた。20年近い専門組織のマネジメント経験を持ち、MDRT(Million Dollar Round Table)、そしてISPE(International Society for Pharmaceutical Engineering)のアジア太平洋地域の成長コミュニティ向けの地域成長戦略の策定と実施をリードした実績も持つ。韓国・高麗大学で言語学の学士号を取得後、シンガポール国立大学でエグゼクティブ・プログラムを修了。PMP(Project Management Professional)とDASM(Disciplined Agile Scrum Master
)の資格を取得している。現在は、夫と娘とともにシンガポール在住。
-プロジェクトマネジメントの定義を教えてください
プロジェクトマネジメントとは、「社会に価値を提供するために、特定の知識やスキル、ツール、テクニックを用いてプロジェクトを遂行すること」を指します。
業界を問わず社会には常に大小さまざまなプロジェクトが動いていて、共通のゴールに向けメンバーが集まり、活動しています。
ソフトウェア開発のプロジェクト、交通インフラ整備のプロジェクト、家を建てるプロジェクト、薬品を作るプロジェクト。
その他、家族の誕生日会やお祝いのパーティを準備・運営するのも、プロジェクトの一つと言えます。
-プロジェクトマネジメントにはどんなスキルが求められますか?
その領域ごとに必要な技術的なスキルはありますが、プロジェクトマネジメントのスキルとして求められるのは大きく3つ。
プロジェクトを成功させるための「時間管理」「予算管理」、作業範囲や成果物を決める「スコープ管理」です。
プロジェクトが複雑化していけばそれだけ細かな専門知識が求められ、同時にソフトスキルも重要になります。
PMIでは「パワースキル」と呼んでおり、その最も大事な4つのスキルが「コミュニケーション」「問題解決力」「協調的リーダーシップ」「戦略的思考力」であると定義しています。これは日々の生活にも活かせるものです。
先日、私が進めたプロジェクトは「4歳の娘の誕生日パーティ」でした。
娘から「ユニコーンをテーマにしたパーティをしたい」と難題を突きつけられたのですが、プランニングから実行まで、プロジェクトマネジメントスキルの枠組みに沿って進めることで、とてもにぎやかで幸せな誕生日の思い出を作ることができました。
―プロジェクトマネジメントスキルの普及を目指す上で、感じる課題を教えてください
世界共通の課題として挙げられるのが、プロジェクトマネジメントにおけるジェンダーギャップでしょう。
2022年にPMIが世界各国のプロジェクトマネージャー3,500名(うち1,900人以上が女性プロジェクトマネージャー)を対象に行った「プロジェクトマネジメントに関する年次グローバル調査(Pulse of the Profession(R) 2023)」では、世界のどの地域でもどの業界でも、男性のプロジェクトマネージャー数が女性の数を3:1で上回っていることが判明しました。
とくに日本を含むアジア太平洋地域では、男性が85%、女性が14%という大きな格差問題が浮き彫りとなっています。
とはいえ、日本はプロジェクトマネージャーの数で見ればジェンダーギャップがあるものの、賃金格差においてはギャップが小さいという結果が出ています。
世界的に男性は女性よりも賃金が高いという傾向がありますが、その格差が小さい国として、日本はトップ3位に入っているんです。フランス、アメリカ、日本の順です。
日本のプロジェクトマネージャーの平均年収は、男性は約800万であり、女性は740万円。格差があるとはいえ、差が小さいことは素晴らしいことです。
―女性のプロジェクトマネージャーが活躍するメリットとは?
プロジェクトマネジメントのスキルは世界共通で、どの業界にも適用できます。
個人の観点では、プロジェクトマネージャーに就くことで一人ひとりの“稼ぐ力”につながり、賃金格差をさらに縮めることができるでしょう。
PMIの給与調査結果によると、私たちが提供する「PMP(R) (プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)」の資格保有者は、取得していない方よりも平均で16%多く収入を得ています。
組織の観点では、昨今のデジタル化の流れから、プロジェクト進行のアプローチが変わりつつあります。
ソフトウェア開発やアプリ開発などのデジタル領域では、短いスパンで開発を進めるアジャイルアプローチ、プロジェクトの特性に応じてスピード重視かクオリティ重視かの見極めが必要であれば、従来のウォーターフォール型と掛け合わせたハイブリッドアプローチで都度最適化を目指すケースが増えています。
PMIの調査では、女性は男性よりもこうしたアプローチを積極的に用いる傾向が強いこと、また先進テクノロジーを使用しデジタル化した組織で働く傾向が強いことがわかりました。
今後、ますます広がるDX化の中で女性の活躍が広がれば、組織全体のスピードアップにつながるのではないでしょうか。
―プロジェクトマネジメントスキルに挑戦する場合、何からスタートすればいいでしょうか
まずはプロジェクトマネジメントとは何か、必要なスキルとは何かをテキストで学ぶことをおすすめします。
PMIでは「PMBOK(R)(プロジェクトマネジメント ボディ・オブ・ナレッジ)」を提供しており、そうした教材を参考にしていただくのもいいでしょう。
ただ、教材はガイドにすぎませんので、実践的なスキルを身につけるには、そのポジションについて経験を積むことが欠かせません。
最初は規模の小さな、難易度の低いプロジェクトからスタートし、管理の範囲を徐々に広げていくといいのではないでしょうか。
プロジェクトマネジメントに関する勉強会や研修などの機会には、積極的に参加して人脈と情報を得ていくのも一つの手です。
PMIでも研究会などのコミュニティが多くありますので、ぜひ参加していただけたらうれしいです。
―「マネジメント職には就きたくない」という人もいますが、プロジェクトマネジメントの良さや魅力を教えてください
そうした声は、私もよく聞いています。PMIが主催するセミナーでも、「リーダーとして注目されたくない」という方、「メンバーの一員にはなりたいけど、マネジメントをしたいとは思わない」という方の多さを実感してきました。
ただ、プロジェクトマネージャーのポジションに就かなかったとしても、プロジェクトマネジメントのスキル自体はビジネスの基礎として非常に役立ちますし、世界で共通するものです。
プロジェクトマネジメントの基本用語を理解し、プロジェクトの成り立ちや進め方を知ることは誰にとっても有効でしょう。プロジェクトメンバーとして、「自分はどんな役割を担うべきか、どんな力をつけるべきか」を俯瞰的に考えられるようになります。
まずはスキルを学ぶところから、スタートを切ってみてはいかがでしょうか。
参考:PMI公式サイト
情報提供元:ANGIE
記事名:「キャリアの可能性を開くカギになる!プロジェクトマネジメントで求められる世界共通のスキルとは」