正義の本質について考えよう

 はじめまして。石川県金沢市在住の吉田まさきと申します!

 地元企業で営業マンとして働く傍ら、週末はフリーライターとしても活動しています。元々文芸書を中心によく読書していましたが、社会人になってからビジネスの視野をもっと広げないとマズイと感じるようになり、ビジネス書にも手を伸ばすようになりました。

 読書によって国内外のビジネスパーソンの素晴らしい知恵・アイデアに触れ、それを実践する。この繰り返しで、営業マンとしてもライターとしてもスキルアップできればと思っています。

 そしてこの場をお借りして、1冊でも多くの優れたビジネス書を皆さまにご紹介できれば幸いです。

 さて、話は変わりますが、最近物騒だと思いませんか。欧米各国でのテロ行為や北朝鮮のミサイル問題…。戦争や紛争の気配が生々しく感じられる国際情勢。戦争を始める国々はそれぞれの「正義」を抱えています。

 「正義」って一体何でしょうか。自分の行為が正しいと思うこと? ぼんやり平和な会社員生活を送っている私には空々しくも聞こえる言葉―「正義」。

 そんな私が出会ったのが、NHKの『白熱教室』で有名になったマイケル・サンデル教授のベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』です。

 高名な思想家を何名か取りあげて、彼らの思想を比較・対立させながら、ロジカルに、そして情熱的に「正義」の本質を詰めてくるサンデル教授に夢中になりました。「正義」についてじっくりと考えてみたいあなた、おすすめです!


これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

「正義」を考える3つの観点とは?

 最初に断っておきますが、本書に「正義」の正体は明記されていません。読者が自分なりの「正義」を見つけるためのきっかけが散りばめられています。

 「正義」について考えるとき、ポイントとなるのは次の3つの観点です。

  1. 幸福の最大化
  2. 自由の尊重
  3. 美徳の促進

 この3つの観点に沿って、「正義」が実現する最善の生き方とは何かを考察していきます。

ベンサム:功利主義

 トップバッターは、功利主義を唱えたベンサム。「最大多数の最大幸福」のフレーズで有名な彼ですが、思想は少し極端で、幸福の最大化を実現するためには個人の人権は蔑ろにされます。

 例えば、コロセウムの見世物処刑がそうで、多数の観衆が望むなら猛獣に噛み殺される一人の奴隷の人権など無視されます。

 功利主義とは、幸福を計測し、合計し、計算すること。そのためには、全ての人の好みを平等に計算できるよう、あらゆる事物を単一の尺度で測らなければなりません。

ミル:自由至上主義

 この功利主義に噛みついたのが『自由論』のミル。あらゆる事物を単一の尺度で計測することには無理があると反論します。

 ミルの根本原理は「人間は他人に危害を加えない限り、自分の望むいかなる行動をしようとも自由」というもので、いわゆる「リバタニアリズム(自由至上主義)」です。

 完全競争市場において、財やサービスを自由に交換することが理想であり、市場の規制は個人の自由を侵すことになるため公正ではないと説きます。

 しかしこれも少々極端な思想でしょう。極論を言えば、徹底的な自由主義のもと、社会的弱者・負け組は路傍で死んでもよいということになるからです。

 「幸福の最大化のためなら、マイノリティーの自由や人権が制限されてもよい」と考えるベンサムの思想とは、真っ向からぶつかるものです。



カント:義務の動機

 ミル同様、「自由」に重きを置いているのが、『純粋理性批判』のカントです。カントにとっての正義に則った行動(道徳的行動)とは、「義務の動機」で行動することです。義務の動機とは、「有用性や利便性のためではなく、そうすることが正しいから」という理由で行動するということです。

 周囲が何と言おうと、自分が正しいと考える、これこそが人間の理性であり、理性的に行動しているときが一番自由だと主張しています。

 功利主義のベンサムの思想に対しては「何が最大の幸福をもたらすかを権利の基準にすることで、権利を脆弱化させている」と否定します。

ロールズ:無知のベール

 一方、ロールズという思想家は、カントの「義務の動機」を否定しています。ロールズ曰く、「正義」について熟考するには、自分が正しいと考える、その思考の枠組みが取り払われた状態―無知のベール(平等の原初状態)―でいる必要があると説きました。

 「自由」に「平等」の思想が付け加えられたということです。

アリストテレス:道徳的観点

 最後は、アリストテレス。彼の説いた正義とは「道徳的な観点からみて人々にふさわしいものを与えること」です。美徳に報い、美徳を促すために財を与えて善良な市民を育成する、政治哲学に「正義」が結びついた思想です。

 これは、「①幸福の最大化」とも「②自由の尊重」とも相反する思想であり、後年の思想家たちは、アリストテレスの思想を批判しました。

 このように、歴史に残る高名な思想家たちでさえ、正義に対する捉え方は対立し、様々な批判を受けています。どの思想が最も「正義」に近いか、結論はありません。

私の考える「正義」とは?

 読者の一人として私の考える「正義」とは、公正な社会を実現することだと思います。「公正」な社会とは、市民が自由を享受しつつ、最善の生き方を選択できる社会です。

 ベンサムやミルの思想は、現代に照らしてみると極に走っていますが、「正義」を考えるうえでのベースとなるのは間違いありません。国民の総意が政治に反映され、かつ社会的弱者のためのセーフティネットも用意されている体制が望ましいということです。

 日本では、多数の国民の意思を反映してくれる政治家が選挙によって選出され、政治の網目から抜け落ちてしまった一部の国民を助ける福祉制度もあります。

 一見すると、私の考える「公正」な社会が実現されているようにも思えますが、内閣支持率の低さからは国民の政治への不満が透けて見えます。

 万人に最適な政治や「正義」などあり得ないのかもしれませんが、アリストテレスの言うように、一人でも多くの国民の倫理観(美徳)が育まれる政治になれば思います。

 そのためには、私たち国民の一人一人が他者に対する思いやりを持ち、適度に自分を律しながら生きていく態度が大切なのではないでしょうか。政治によって私たちがつくられるのではなく、私たちが政治をつくっていくのです。

 久々に考えさせられた一冊でした。本書を読んで、あなたの考える「正義」をぜひ教えてくださいね。

執筆者プロフィール

吉田まさき
石川県金沢市在住。地元企業で営業マンとして働く傍ら、週末はフリーライターとしても活動しています。キャッチフレーズは『走る本の虫』。読書好きで活字に埋もれる日々ですが、社会人になってからはマラソンも趣味にしています。地元の金沢マラソンは勿論、全国各地の大会に出没しています。

今後の目標は、「読む・書く・走る」の三点倒立を継続しながら、いずれ紙の書籍を出版することです。出版した本を枕代わりに敷いて寝たい変人チックな私ですが、皆さまどうぞよろしくお願いします!

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これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

情報提供元:美女読書
記事名:「マイケル・サンデルの白熱教室で「これからの正義」について考えたみた