パートナーの暴力に苦しむ女性に救いの手を差し伸べたのは、
彼女のベッドの下に潜むストーカーだった……
盲目の愛なのか──それとも暴走した狂気なのか──。

2023年末、韓国映画界に鬼才・SABU監督が放ったのは文字通り、衝撃の作品でした。映画『アンダー・ユア・ベッド』は大石圭の同名小説を原作にもつハードボイルド・ラブロマンスです。

序盤からむき出しになるのは“強め”の成人向け表現。緊迫感の漂う中、ストーリーは劇的な終末へと進みます。しかし、全てを観終えた後に感じるのはおそらく「暴力」と「排他」ではないはずです──。繊細な思いで織りなされた緻密な画作り、そしてこの作品の根底に流れる“意思”について、SABU監督ご本人にお話を聞いてみました。

──ご無沙汰しております。11年前、2013年に『Miss ZONBIE』で取材させていただいて以来となります。まず、今回、韓国で制作することになったきっかけを教えてください。

■関連記事:SABU監督新作『Miss ZOMBIE』インタビュー ~「ゾンビが居る日常」と「色の無い世界」と「音」(2013/09/14)
https://getnews.jp/archives/417198 [リンク]

SABU監督:海外作品を撮った時の縁ですね。海外は映画祭だったり知り合いも多いんですが、海外進出をこれからしていかなきゃな、と思って時に話が来たんです。韓国も韓国映画も好きですし。

「エログロなのは見たくない」激しいけど不快じゃないもの

──バイオレンス描写はSABU監督の考えるギリギリを攻めたんでしょうか?

SABU:今回は(原作に出てくる)3人の話がメインになっています。時代的に「今、これ大丈夫か」っていうのはちょっとありましたよ。だからちょっとひるんだところもありましたけどね。

ただ、映画は、観始めた時よりも劇場出るときの方が、少しでも気分が上がっていないとなあ、って考えてるんです。自分が作る映画、観る映画は、ちょっとだけでもね。
そういうのもあって、その3人の話を、あまり“悪者”にしたくなかったんですよ。

だから今回のキャラクターたちは「なにかしらの影響があって、そういう人物になった」という形で描いています。

──自分自身も観たい映画を作ると。

SABU:やっぱ観客もそのほうが嬉しいかなって思います。

──『アンダー・ユア・ベッド』観終わって思ったのは、暴力や性描写は結構激しかった一方で、そこまで不快感を受けないというか、不思議な爽快感があったことです。激しいけど不快じゃないものを目指しているという印象を受けました。

SABU:そうですね。暴力はちゃんとしなきゃいけないし─ちゃんとしなきゃいけない、っておかしいな(笑)。最初からR18、成人指定は確実として韓国で撮っているから(いろいろな方向の)表現は思いっきりできるので徹底しました。でも、その一方で性描写はとにかく綺麗じゃないとダメ、っていう風にも思っていました。女優さん(イェウン役、イ・ユヌさん)も初めてこういう表現に臨まれる方だったんで、できるだけ綺麗に撮ってあげようっていうのは考えていました。

エログロなのは見たくないんです……。俺、絵コンテの殴ってる絵を描いている時、こんなに嫌な気分だったの初めてでしたね。

この時代にこの形の映画を公開できるのは、俺としてはすごく光栄です。みんなが絶対避けるテーマ、描写だしね。それを堂々と公開できるのはすごく嬉しいです。

色と4:3という画角へのこだわり

──本作、当初は4:3モノクロで制作していたと伺いました。

SABU:前の『Miss ZOMBIE』でやった手法に近いんですけど、今回も主人公の過去に触れたりする場面で色(カラー)がついていく手法で最初は作っていたんです。だから海外の映画祭とかはそのバージョンで送っているんですが、(暴力的な表現もあいまって)もう、見事に今回全部断られたんです。
評論雑誌などでは絶賛いただいたんですが、映画祭はことごとく断られたっていう──ちょっとある意味、自慢ですけどね。(笑)

──『アンダー・ユア・ベッド』公開版は全編カラーになっていますね。

SABU:プロデューサーと相談して、最終的にカラーにしました。だからこそ色味にはすごくこだわりました。グレーディング(カラーグレーディング:作品全体の色味の微調整)は2か月近くやり倒しました。

──控えめの彩度やブルーの加減が、厳しい冬の突き刺さる空気の表現につながっているように感じました。

SABU:本当寒かったんです。びっくりしました。もうマイナス17℃とか18℃ですよ。すごく寒い!なに着ても寒かったです。

──画の線が結構硬くてパキッとしてたのは、現場が実際にそういう空気でもあったし、監督自身もそういう調整にもっていった感じですか?

SABU:そうです。そういう側面もありますね。

──直線の使い方やシンメトリを用いた構図など、配置へのこだわりはとにかく強く感じました。

SABU:今回、画に集中したところはあります。コンテもすごく細かくしっかり描きました。もうほぼコンテ通り撮ってますね。熱帯魚屋のシーン、お客が帰っていくシーンなんかは特に。観てほしいです。

──画作りについては、カメラマンさんの力も?

SABU:そうですね。実はこれ撮る前に観た『イーダ』(2013年ポーランド作品、パヴェウ・パヴリコフスキ監督)って作品がすごく好きで。カメラマンにも言ったら彼も大好きで「3回くらい観た」って言ってて気が合って。(笑)

──『Miss ZONBIE』当時はシネスコ(シネマスコープ/縦横比12:5の横長サイズ)で撮ってみたかった、白黒で撮ってみたかった、ということをおっしゃられてました。今回は4:3という、かつてアナログテレビなどでよく使われていた画角を採用されていますね。

SABU:普段できないことができるな、と思った部分があります。確かに俺もシネスコが大好きだったんですけど、最近は携帯で観るようなものが多くなって横長のものが多くなってきました。
あと、今回は3人の話なので、画に集中できるサイズがいいなと思っていました。

あと、「余白」がすごく好きなんですよ。例えば西洋画がしっかりと全体を描き込むのに対して、日本画が余白を生かすような。音で言うと無音部分もそうなんですけど、余白があることで観客が集中したり想像したりできるのではないかと思いながら撮りました。

──余白ということで言ったら、4:3よりシネスコの方が余白を多く取れそうにも感じますが。

SABU:いや、(横ではなく)上の余白なんですよ。そっちの方が面白い、とね。

──あ!なるほど。

SABU:『砕け散るところを見せてあげる』(2020年)って作品を撮った時なんですけど、カメラマンが何か準備するときにモニター見てたら、(三脚上の)カメラがほったらかしになって、(カメラの)重さでゆっくり上の方に向いていったんですね。その画がすごくかっこ良くなったんですよ。中川大志くんが映っている顔から上だけが空で真っ白になって!

その作品でそこだけその画を取り入れても、他の場面とのバランスが合わないんでその時はあきらめたんですけど「絶対やりたい!」ってずっと思ってて。

──「盗撮」というモチーフだからこそ、古い盗撮カメラの画角を通して観客が観ているという風にも感じました。

SABU:それもあります。また、作中で用いている8ミリフィルムの画角も4:3なので、画角には色々な要素が重なっていますね。

「間違った繋がり方」と「希望」

──今回の登場人物たちって、みんな間違った繋がり方とかはしてる人たちばっかりですよね。でも、世の中って実は間違った繋がり方してる人が多いんじゃないか、とも思います。間違ってはいるんだけど、そういうものを全て排除するのは良くないのではないか、という監督の優しさ込みのメッセージを本作から感じました。

SABU:そうそう。そうですね。声上げたくても上げられない人っていうのが、やっぱりまだまだいると思います。まあ、どんどん好き勝手なことを書いている人もいますが。でも、やっぱりちゃんと、聞く側がちゃんと聞いてあげなきゃっていう風に思って。イェウンもジフンも自分は1人だって思ってるけど、どっかで誰かが聞いてるっていうような、希望っていうか、そんなものがあったらな、と思ってます。

どこかで誰か、自分を後ろから抱きしめてくれるような人が居るっていうかね。

──まさに希望ですよね。

SABU:聞いてくれるとか、わかってくれる人がきっと居る、っていうことに期待したいというか。そんな感じです。

──そう考えると、盗撮の形で「誰かが見てくれている」っていう視点は、すごいですね。

SABU:そこを強調しすぎると、フィクションとは言え「ストーカーを美化するのか」って怒られそうで(笑)。言い切れないとこもありますね。

──今作に限らずSABU監督の作品には、シリアスの中の「面白描写」が印象的です。本当に絞ってはおられるものの、悲劇と喜劇の両方を時折感じました。

SABU:やっちゃいますね。今回もやろうと思ったらいっぱいできましたけど、だいぶ我慢しました。オリジナルの時はやっちゃうんですけど、今回はちゃんとしよう、と。スタッフとかはみんな喜んでくれたからすごく良かったんですが、本人としてはすごい挑戦で(ユーモア表現を織り込むのは)迷いました。

──全体のトーンを壊さない、ギリギリの塩梅が素敵でした。

「ずっと新人でいたい」

──今後についてお聞かせください。

SABU:ずっと新人でいたい、って意識があるんです。そういう意味では韓国でやれたり海外で(撮影を)やるのは新人でいられるので、すごく楽しいんです。もういい歳なんですが。

──あまり「いい歳」感ないです、監督。

SABU:もう、今年60ですから。恐ろしいっすよ。(笑)30年近く撮り続けています。やっぱり慣れっていうのが一番怖いので、別の環境で“新人”でいられることはすごく楽しかったです。慣れてきて「こういうもんだ」って決めつけちゃうのを自分は一番嫌っているんですが、知らず知らずのうちに「こういうもんだ」っていう風にしがちなんですよね。楽をすることに流れるのが一番怖いですね。

──次回作も“新しい”ところ、めっちゃ楽しみにしています。

SABU:ガンガン行きます。めっちゃ待っててください!

──最高です。ありがとうございました!

観終えたあと「この感情」について誰かと共有したい

激しいバイオレンスの先に浮かび上がる人間と人間の繋がり。魂が救われるには、何が必要なのだろうか。『アンダー・ユア・ベッド』は観終わった後、湧いてくる感情について誰かと話したくなる名作であると確信しました。SABU監督の新たなる進撃です。

【ストーリー】
学生時代から誰からも名前すら覚えてもらえなかった孤独な男・ジフン(イ・ジフン)には忘れられない女性がいた。それは、初めて大学の講義中に名前を呼んでくれたイェウン(イ・ユヌ)だった。 数年経っても忘れられないジフンは彼女を探し出し再会を果たすも、彼女は覚えていなかった。 再び彼女に強烈に惹かれてイェウンを24時間監視 するようになったジフンは彼女が夫であるヒョンオ(シン・スハン)から激しいDVを受けていることを知ってしまうが──。


『アンダー・ユア・ベッド』

5月31日(金)全国公開中
出演:イ・ジフン、イ・ユヌ、シン・スハン
監督・脚本:SABU 
原作:大石圭『アンダー・ユア・ベッド』(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
配給:KADOKAWA
映倫区分:R18+

https://movies.kadokawa.co.jp/underyourbed/

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2023年/韓国/韓国語/99分/カラー/スタンダード/5.1ch/原題:언더 유어 베드/字幕:北村裕美

情報提供元:ガジェット通信
記事名:「鬼才SABU監督・韓国デビュー作『アンダー・ユア・ベッド』/「エログロなのは観たくない」けど「暴力はちゃんとしなきゃいけない」という矛盾しているようでシンプルな心理