こどもの死についてあまり解明されていない。
21年度の子どもの虐待死は74人であるが、全ての虐待死を検証できているわけではないようだ。
日本小児科学会 予防のための子どもの死亡検証委員会委員長であり、こども家庭科研「子どもの死を検証し予防に活かす包括的制度を確立するための研究」班代表も務める名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部の沼口敦氏にCDRについてお話を伺った。
CDRとは「チャイルド・デス・レビュー」の略語であり、こどもの死因について情報を集め、検証し、提言する取組。今後こどもたちが安全に暮らせる社会につなげていくことを目的としている。
病気が原因でこどもが亡くなった場合は死因が判明しているが、死因がはっきり分かっていないこどもの死亡も多い。死亡の原因や死をとりまく状況を解明し発信していくことは、これから先に起こりうるこどもの死亡を未然に防ぐことができるという沼口氏の見解だ。
なぜ死んでしまったのかを情報を集め、検証、効果的な予防策を世に発信していくことで、将来のこどもたちの安全につながっていく。「検証」といっても過去に起きた真実を明らかにするということではなく、ここから将来安全な世の中にしていけるように何を学び取るかということに重点を置いていると沼口氏は語った。
こどもの死を他人事ではなく、自分ごととして捉えて行動してもらえることが、こどもの安全につながる。これまでこどもの死について正面から語る機会は少なく、CDRは他人事に見えやすい事業である。自分ごととして捉えにくいため理想と現実が乖離している取組であることが課題点だとあげていた。
また、死因究明とCDRの違いについて沼口氏は説明した。死因究明とは、こどもが亡くなった際に、医療機関や生前関わっていた学校、児童相談所などの情報から死因について調べる取組といえる。いっぽうCDRは、死因究明の結果をもとに予防策を考えて、今後に活かしていくという、いわば「出口戦略」とも言える。
CDRそこから意図しない事故の予防にもなるという知見が積み重ねられ、日本にもCDRが紹介された。当初は医学的研究として探索されたが、令和2年度から行政を実施主体とするCDRモデル事業が開始された。行政の関与によって、検証結果を具体的に世の中に提案する道筋ができたことは大きな一歩だと沼口氏は語った。
こどもを亡くした遺族のこころのケアも重要な課題である。
CDRは特定の個人に対してフィードバックすることよりも、社会全体に対してフィードバックすることに重きを置いている。ただ、こどもを亡くした関係者から「自分のこどもの死について、社会や行政がちゃんと取り組む姿勢が、グリーフケアにもなっている」との声も聞かれることに励まされるそう。
沼口氏に今後のCDRの目指すことをきいたところ、地域差をなくすことだと語った。どの自治体に生まれても同等の、こどもにとって安心・安全な社会を提供できるように、CDRが地ならしのきっかけになってほしいと沼口氏は今後の目標を掲げていた。
沼口氏は最後に、死について語ることをタブーとする雰囲気もあるが、しかし死について話し合うことが、将来の社会の安全へとつながる最初のステップになると話してくれた。専門職同士が真摯に話し合うことでこどもに関わる機関のコミュニケーションが円滑になり、このような変化によって社会全体の未来がかわっていく、そのきっかけとしてCDRが確立してほしい。社会全体がこどもの死から目を背けない考え方が根付いてほしいと今後の展望を述べた。
CDRサイト
こども家庭庁/CDRポータルサイト
https://cdr.cfa.go.jp/
取材協力
沼口 敦(ぬまぐち あつし)
名古屋大学医学部附属病院 救急・内科系集中治療部 病院講師
1996年名大卒。2004年あいち小児保健医療総合センター循環器科医長。
名大病院小児科病院助教,同院救急科病院助教を経て,18年より現職。
14~20年まで日本小児科学会子どもの死亡登録・検証委員会に所属し,
22年からは同学会予防のための子どもの死亡検証委員会委員長を務める。
情報提供元:マガジンサミット
記事名:「こどもの死を究明する「CDR」で安全が保障される世の中に。取組について訊く」