東京都がJR有楽町駅前に昨年夏に開設したメディアアートとテクノロジーの体感拠点「SusHi Tech Square」。同館で現在開催中の「TOKYO FORWARD TOKYO2020レガシー展」にちなんだ特別イベントが1月14日に開催され、オリンピック、パラリンピック、デフリンピックの各バレーボール競技に出場経験があるアスリート3名によるトークショーが行われた。

3種目のバレーボールアスリートが「SusHi Tech Square」に集結

「TOKYO2020大会のその先へ パリ2024大会、東京2025デフリンピックに向けて」と題されたトークショーでは、まずはじめに東京2020年大会でイメージキャラクターとして活躍したミライティとソメイトワがステージに登場。会場に集まった観衆に向かって元気よく手を振ると大きな歓声が上がった。

続いて、2012年ロンドン五輪・女子バレーボール競技銅メダリストの迫田さおり、2020年東京パラリンピック・女子シッティングバレーボール競技出場の田中ゆかり、2017年サムスンデフリンピック・女子デフバレーボール競技金メダリストの長谷山優美という、バレーボール3競技の女性アスリートが登場。2008年北京五輪・競泳男子メドレーリレー銅メダリストの宮下純一がMCを務め、楽しいバレーボール談義に花を咲かせた。

最初のトークは「2023年までを振り返る〜国際舞台という大舞台を戦って〜」がテーマ。まずは2012年ロンドン五輪バレーボール競技の思い出を尋ねられた迫田が、当時の記憶を蘇らせながら次のように語った。

「ロンドン五輪の頃は、私はまだチームの若手だったので、先輩たちにオリンピックまで連れてってもらい、最高の景色を見させてもらったという印象です。環境にしても場所にしても、すべてが初めての体験で、オリンピックに出るということの厳しさを知りましたし、反対に、時には厳しさのスイッチをオフにすることの大切さも学ばせてもらいました」

続いて、2018年のアジアパラ大会で銅メダルを獲得したものの、東京パラリンピックでは残念ながら出場8カ国中最下位に終わった田中が、東京大会での経験を次のように語った。

「ベスト4を目標にして戦ったのですが、1勝もできなくてとても悔しかったです。初戦のイタリア戦でレギュラーのセッターが1セット目で負傷してしまって急にポジションを変えなければならなかったりして、11人をエントリーできるところを9人で臨むことになりました。6名のレギュラーとリベロ、控え選手の2名で挑んで、全員で何とか戦いきったという大会でしたが、それでもみんな最後まで元気よく笑顔で大会を終えられたと思っています」

一方、弱冠16歳で出場した2017年サムスンデフリンピックで金メダルを獲得した長谷山は、当時を次のように振り返った。

「あの大会は私にとって2度目の世界大会で、前年に出場した世界選手権では4位に終わっていたので、デフリンピックで優勝できてとても嬉しかったです。決勝戦には他の競技の選手たちもたくさん応援に駆けつけてくれて、デフバレーボールは試合中に補聴器を外すのがルールなのでまったく音が聴こえない状態だったのですが、それでも盛り上がりがわかるくらい、すごい応援だったことを覚えています」

“3つのバレーボール”のルールの違い

続いてのテーマは「各大会での“バレーボール”競技とは〜競技の見どころや違いに迫る〜」という話題。ここでは、はじめに迫田が女子バレーボールのルールを説明し、田中と長谷山がそれぞれの競技との違いを解説した。

下肢などに障害のある選手がプレーするシッティングバレーボールは、通常のバレーボールよりもコートの長さが8メートルほど短く、ネットの高さは半分以下。お尻を床につけた状態でプレーするのが決まりで、レシーブの際だけ短時間の離床が認められる。また、障がい程度の違いにより「VSⅠ」と「VSⅡ」に選手のクラスが分けられている。ちなみに、国際大会は障害者だけに出場資格が与えられるが、国内大会の中には健常者も出場できる大会もあるといい、「小学生から高齢者までが一緒に楽しめるところがシッティングバレーボールの魅力のひとつです」と田中。

上の説明を聞いた迫田は「アタックを打つ時も常にお尻を付けていないといけないんですか?」と田中に質問。これに対して「アタックを打つ時もお尻が上がると反則になって、相手に主導権が渡ります」と田中が答えると、そうした体勢でどうやってコートの中を動くのか、他の3人は一層興味津々で、田中がステージ上で動きを実演して見せる場面も。

一方で、聴覚障害者のスポーツであるデフバレーボールは、コートの大きさやネットの高さは通常のバレーボールと同じだが、プレー中は補聴器を外さなければならない決まり。選手は足踏みの振動や目線を使って連携を取るという。

バレーボールといえば、選手間の瞬発的なコミュニケーションが常に欠かせないスポーツだ。それだけに補聴器を外した状態で本当に連携が取ることができるのかという周囲の疑問に対し、「実際にコミュニケーションは大変です。私たちの場合はサーブの前の身近な時間に手話で話したり、相手のチャンスボールが上がった時にアイコンタクトで合図を送ったりしています」と答える長谷山。

迫田は「それって相手の動きを見ながら、ボールから一瞬目を離してコミュニケーションを取るということだから、絶対に難しいですよね」と驚き。そこで「聴覚障害の人は皆さん視野が広い人が多いんです」と長谷山が言うと、宮下がすかさず反応し、「普通のバレーボール選手でも視界の広い選手が多いと思うんですけど、それ以上に視野が広いんですね。僕なんて水泳で背泳ぎをやっていて天井ばかり見ていたから視野が狭くて狭くてしょうがない!」とまさかの自虐ネタで会場の笑いを誘った。

2024年パリオリンピック・パラリンピック、2025年東京デフリンピックに向けて

そして最後は「パリ2024オリンピック・パラリンピック&東京2025デフリンピック〜新たな目標とそのための取組〜」というテーマで、3人それぞれが自分の競技で間近に控えた国際大会への期待と意気込みを披露。まず迫田が、パリ五輪の女子バレーボール競技について期待を述べた。

「男子は去年に出場権を掴みましたが、女子は6月に出場の可否が決まるため、今は選手もスタッフも一丸となって、まずは切符を獲るために一生懸命がんばっています。きっと、観た人たちもがんばろうと思えるような熱いプレーをしてくれると思うので、男子も女子も応援よろしくお願いします」

続いて、田中もパリ・パラリンピックに向けて次のように述べた。

「4月に残り一枠の五輪出場権をかけた世界最終予選が待っています。私は今、産休中なので出場することはできませんが、東京大会の後に新たな選手が4名加わり、病気の治療で離れていた選手も戻ってきてチームに活気が出てきていると聞いているので、まずは無事に出場権が獲れるように応援したいです」

そして、デフバレーボールは来年11月に東京で開催されるデフリンピックに加え、今年6月には沖縄で世界選手権の開催されることが決定している。日本での国際大会が続き、注目を集めそうな状況の中で長谷山は次のように意気込みを語った。

「オリンピック、パラリンピックよりも知名度の低いデフリンピックですが、世界選手権、デフリンピックと大きな大会が国内で続けて開催されるおかげで、今はいろんなところから教室を開いてほしいという依頼が増えています。最近は手話に関するドラマも多いですし、これを機にデフリンピックや手話に関心を持ってくださる人が増えてくれたらいいなと思っています」

そして世界選手権とデフリンピック東京大会の目標を宮下に尋ねられ、どちらも「金メダル」と長谷山が答えると、会場から大きな拍手が起こり、3つの競技のファンが相互に理解を深めるトークショーになった。

また、この日は「みんなで手話にレッツトライ」というイベントも併せて開催され、長谷山を先生役に「こんにちは」「バレーボール」「デフリンピック」などの手話を学んだ。

「SusHi Tech Square」1階Spaceで開催中の「TOKYO FORWARD TOKYO2020レガシー展」は、最新デジタル技術を用いた各種アーカイブ資産等の展示や競技体験の場の提供を通じて、東京2020年大会の記憶を留め、伝え繋ぐことを目的とした企画展。

3月10日までの第2期展覧会では、初公開となる開閉会式の衣装や競技備品等の展示、初心者でも気軽に楽しめるスケートボード体験のeースケートパーク、選手やミライトワ・ソメイティとバーチャルに撮影できるフォトスポットを新たに設置している。あの東京での熱狂を振り返りつつ、今年に迫ったパリ大会に向けての気分を高めに一度出かけてみてはいかがだろう。

「TOKYO FORWARD TOKYO2020レガシー展」
会場:SusHi Tech Square1階Space (東京都千代田区丸の内3-8-3 旧東京スポーツスクエア)
会期(第2期):令和5年12月15日(金)〜令和6年3月10日(日)
営業時間:火曜日〜金曜日 11:00〜21:00(最終入場20:30)、土曜日及び休日 10:00〜19:00(最終入場18:30)
休館日:毎週月曜日(ただし、2月12日(月)は開館) 1月9日(火)、1月24日(水)、2月13日(火)は休館
入場料金 :無料
※混雑時は入場規制を行う場合あり。

情報提供元:舌肥
記事名:「バレーボール、シッティングバレー、デフバレー、3つのバレーの違い知ってる? 「TOKYO FORWARD TOKYO2020レガシー展」がトークショーを開催