近年、都市部から地方への移住・定住に関心が高まっている。これに応えるため、国ではさまざまな移住支援制度を設けており、中でも平成21年度より実施している「地域おこし協力隊」の参加者は年々増加傾向にある。総務省発表「令和4年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」によると、「地域おこし協力隊」として令和4度に活動したのは6,447人と過去最多を更新。また、過疎化が深刻化する地方自治体では、はたらき手の確保、結婚に繋がる機会づくり、子育てしやすい環境づくりなど人口流出を防ぎ、地域活性化に向けた取り組みを試行錯誤している状況だ。

採用転職サービスを行うミイダス株式会社は、労働人口の減少、需要と供給のミスマッチなど、現在の日本が抱える労働課題解決を目指し、朝日新聞と共同で2023年度より『はたらく人ファーストアワード』を開催している。「はたらく人」一人ひとりを「ファースト」に考えていきたいという思いをもった企業を表彰するものだ。昨今ライフスタイルや価値観だけでなく「はたらきがい」も多様化が進んでおり、今後一人ひとりの「はたらきがい」をより尊重していく必要がある。そのためにははたらく人のホンネにきちんと耳を傾け。それをもとに改善に努めていくことが重要だ。
今回、人材不足への対策を実施し改善されている自治体の事例として、ミイダスは島根県隠岐諸島にある海士町を取材。地方移住は促進しても、移住者がその土地に馴染み、仕事や生活が安定しなければ定着しにくい実態がある中で、海士町では島移住者の受け入れを積極的に行っており、移住者の島への定着に成功している。今回、ミイダスが海士町の事業である「海士町複業協同組合」の取り組みについて取材したところ、島への定着が成功している背景には「はたらく人ファースト」の概念が根底にあることがわかった。

「海士町複業協同組合」は“組織横断的な複業スタイル”で自分らしいはたらき方

島根県・海士町は、「自立・挑戦・交流×継承・団結」を町政の経営指針に掲げ、「ないものはない」を合言葉に、島国であるが故の価値や生き様を島内外に発信しながら、様々な分野で挑戦を続けている。海士町内での事業の一つである「海士町複業協同組合」は、「組合員である企業の魅力を発見することによる価値創出」や「組合員である企業どうしの繋がりの発見による新事業創出」を目的とし、2020年11月に設立された日本初の特定地域づくり事業協同組合である。漁業や農業、畜産業、観光業など島の特色ある産業を活かし、そこで楽しくはたらける人を増やすために、「繁忙期に異なる島の様々な仕事を組み合わせ、時期に応じてはたらく場所を変えていく」という組織横断的な複業スタイルを確立。これにより島の多種多様な業種の人材不足を解消し、持続可能なはたらき方を推進している。このはたらき方を「いろいろな仕事を掛け合わせて、わたしらしく編んでいく」という意味をこめて、「AMU WORK(アムワーク)」と名付け、はたらく人、島全体、双方にとって刺激と活気をもたらす活動を行っている。

一人ひとりのチャレンジしたい意欲を尊重

海士町複業協同組合では、移住者が組合の職員となり、複業を通じて一人ひとりがチャレンジしてみたいことを後押しできるようにすることを念頭に置き、職業を紹介。たとえ未経験の職業であっても、未経験前提で企業側も受け入れているため、安心してはたらくことが出来るという。移住者の希望があれば、組合からはたらき先企業へ声掛けをするケースもあるそうだ。受け入れ側が移住者に合わせていくことを重視しており、個々の生活スタイルによって変化する、はたらく人の意思を尊重してはたらき先を選定している。海士町では島に来た人が他の地域でもパフォーマンスを発揮することや、引き続き交流があるような関係性を目指している。

継続的な関係を築き、住んでいなくても町に関わることのできる仕組み作り

海士町では、島を離れた後に日本全国にいる島の卒業生とともに新たな事業を一緒に行うなど、交流を絶やさないことを目指し、島に移住したときから、島を離れた後も繋がりが継続するような関係づくりを目標とした「還流事業」を進めている。さらに、第二の住民のような位置づけであり、その地に住んでいなくても町政に参画することを可能にする仕組みの「関係人口経営」にも力を入れ、全国の自治体がそれぞれの関係人口経営の考えに基づき活動をしている。アンバサダー(支援者)になった人は、年会費を住民税と見立て納める代わりに、例えば、本土から島へ移動する際のフェリー代金が半額など、海士町の住民が受けられる同じサービスを受けることが可能。その他にも島で新規事業のチャレンジを一緒にしていくなど、海士町に関わることができる仕組み作りを行っている。

町ぐるみで公私ともに支える

海士町複業協同組合では、一人が2拠点、3拠点とはたらきながら、地域の住民との関係性を構築できるが、さらに深く地域に馴染んでもらい、職場でも活躍してもらえるように、暮らしている地域の自治会に参加することが薦められる。その役割を通して、元々の住民との交流が始まり、移住してきた人が溶け込んでいくきっかけにもなる。伝統的な盆踊りやスポーツ交流イベントのほか、町ならではの活動として島のお祭りの運営側に関わることも可能。これらの活動を通して、様々な島民と関係を築くことにより、仕事においてもスムーズに職場の人とコミュニケーションが取れるようになり、パフォーマンスの発揮に繋がっているという。

このように海士町では、自分らしくはたらける複業スタイルを推進し、島移住者一人ひとりの意思を尊重した職業紹介や、島に馴染むために必要な“人との繋がり”を重要視した取り組みを行っていることがわかった。一人ひとりを大切にし、多様なはたらき方による“はたらきがい”の創出は、まさに「はたらく人ファースト」の社会のモデルケースだといえるだろう。

「はたらく人ファースト」は、“はたらきがい”や“はたらきやすさ”をもたらし、はたらく人の成長、そして企業・事業の発展に繋がる。今後も少子化が進み、人手不足が深刻化する中、地方自治体だけでなくすべての企業において人材確保は重要な課題だ。はたらく人を大切にする「はたらく人ファースト」な企業の増加が期待される。

『はたらく人ファーストアワード』
はたらきがいのある職場を目指すには、はたらく人の声に耳を傾けることが必要。今回海士町に取材を行ったミイダスでは、新たな評価観点(主観と客観による質問、項目の重要度ヒアリング)を用いた「はたらきがいサーベイ」の無償提供とともに『はたらく人ファーストアワード』を開催している。「はたらく人ファースト宣言」に賛同し、はたらく人を一番に考える、その思いがあれば、すべての企業が応募可能。

特設サイト:https://corp.miidas.jp/landing/hatarakuhito_first_award/2024

情報提供元:舌肥
記事名:「地方移住・定住のカギを握る「はたらく人ファースト」とは?事例から見えた“はたらきがい”と地域の人との繋がり