東日本大震災で大きな被害を受けた福島県。企業誘致や生業再建の支援を通じて福島復興を実現しようと取り組んでいる経済産業省では、若手有志職員が「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」を2022年7月に立ち上げた。これは産業・地域経済の再生のみならず、映画をはじめとする文化や芸術を通した地域の新たな魅力創出、そして出来上がった作品が地域の方の誇りとなって被災者の心をつなげて新しい交流を生み、さらなる復興の一助となるのではないかという想いからスタートしたという。
立ち上げ後は映画を通じた復興や、地域に滞在した芸術家がその土地からインスピレーションを受けながら制作活動を行うアーティストインレジデンスなどの取り組みが進められ、昨年度には映画界の巨匠タル・ベーラ監督を講師として招き、映画マスタークラスが開催された。この時は7人の受講生が実際に福島浜通りに滞在し、台本制作から撮影までを行なって作品を制作。今回のトークイベントには、錚々たる登壇者たちに加え、当の7人の受講生も会場に集結し、昨年のマスタークラスの思い出を振り返った。
マスタークラスの記録映像の上映後には、引退宣言後、映画教育に身を捧げているタル・ベーラ監督の日本人唯一の生徒でもあり、記録映像を撮影した小田 香監督(右)と東京国際映画祭プログラムディレクター市山尚三さんのトークセッションがスタート。本来ならこの場所にはタル・ベーラ監督が登壇しているはずだったが、急な体調不良で来日が叶わなかったという。市山さんによると「ちょうど東京国際映画祭のオープニングの日に電話がかかって『ドクターストップだ』と。本人も本当に残念だと言っていたので、また別の機会にまた日本にお呼びしたいと考えている」と語った。
続いては、今回のメインプログラムであるスペシャルトークイベント「巨匠タル・ベーラとみる福島浜通り」。登壇者は(右から)西ケ谷寿一さん(映画プロデューサー)、小川真司さん(映画プロデューサー)、小田 香監督、根本李安奈さん(一般社団法人相双フィルムコミッション代表)、ファシリテーターを務めた経済産業省 福島芸術文化推進室の高橋拓磨さん。
「自身も映画を何本か作る中で、震災の後にたびたび被災地を訪れ、その変化を見てきた」と語る小川プロデューサー。
「所属する東京テアトルは比較的アート系の映画を上映しているが、自身は自主映画を作っている若手のデビューに関わることが多い。今回のマスタークラスには何人か知っている人もいたので興味深い」と語った西ケ谷プロデューサー。
「避難の解除は同心円状にされてきており、震災直後から活動されてきた方、5年目、10年目に解除されてスタートする方とでは、目指すところは一緒かもしれないが言葉の様子や気持ちが全然違う。でもそれはすごく面白いと思う」と語る根本代表。
トークイベントの途中には、話題の内容に合わせて変わるがわる7人の受講生もトークに参加し、映画界の巨匠と共に過ごしたマスタークラスの内容が赤裸々に語られた。
震災からの復興支援のひとつとして立ち上がった「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」。今回のトークイベントでは「そこに巨匠が来た、映画の撮り方を教えてくれた、受講生たちが頑張って作品を作り上げた」だけでない感動のストーリーがあった。経済産業省では、この活動をより本格化させ、芸術家の滞在制作支援や、映画・音楽に関するイベント開催などを予算も含め組織的に推進するため「福島芸術文化推進室」を昨年6月に設置したという。そこでは現在、次のふたつのプロジェクトが展開されている。
『ハマカルアートプロジェクト』
https://hamacul-project.com
福島12市町村の持続的な発展に向け、地域内での地域住民との交流を含む取組や場づくり、および作品制作を行う学生プロジェクトなどへの支援事業。
『映像芸術文化を通じた関係人口創出事業(通称ハマコネ)』
https://hamado-ri.com
福島12市町村の関係人口の増加や自律的な活動の創出と継続に向け、ジャンルを問わないアーティストなどと地域住民、事業者・団体が協働するプロジェクトなどへの支援事業。
この新しいプロジェクトを含め、今回のイベントでは経済産業省の本気が強く感じられた。それはきっと、冒頭の宇野さんの説明にもあった“若手有志職員”たちが幼少期に東日本大震災を(テレビからの映像も含めて)目の当たりにした世代だからなのかもしれない。子供心に直面した悲劇と、それに対して「なんとかしなきゃ」と感じた想いが今、経済産業省職員という立場になって花開いたのでなかろうか。これから先、このような志を持ったお役人が国を動かしてくれることを、いち国民としてとても喜ばしいと感じた。
情報提供元:舌肥
記事名:「経済産業省「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」が東京国際映画祭にてスペシャルトークイベントを開催」