【ほしのうつつ】あの日の「ずる」

本エッセイは、ライター・HOSHIさんによる文章と、アマナイメージズ クリエイティブディレクター・松野正也によるフォトキュレーションでお届けします。

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小学生の時に、一度だけずるをしたことがある。

細かいことを言えば、算数ドリルの答えを写したり、やってない宿題を忘れたことにしたり、まあ人並みのずるはやってきてしまったけど、自分の中で許せないずるは人生で一度だけ。

私は「50メートル走の記録を書き換え」てしまった。

この話を飲み会で酔っ払って人に懺悔するたびに、周りからはケラケラと笑われてしまう。でも、酔っ払わなければ言えないほど、私の中では深く反省し、傷が残っていることだ。

体育の授業で計測する50メートル走の記録。何人かで一気に走り、ストップウォッチを持った先生が一人一人記録を言って、本人が用紙に記録していく。私はそれをほんの少しだけ、実際の記録より速い数字にしてしまった。

「ほんの出来心だったんです。」
それだけならちょっと見栄を張っただけだと許せたものを、なんと私はその記録のおかげで運動会のリレー選手に選ばれてしまった。もちろん、ずるの記録だから、私よりもなるべきだった真のリレー選手は他にいたはずである。

どうしよう。正直に「あれは嘘でした」と謝るべきか。それとも、明るく「実はあれ嘘やねんー!がははは!」と言ってみるべきか。

それでも小6の小さなハートに、どれも実行する勇気は持ち合わせていない。

当日、私は何食わぬ顔でチームを背負ってリレーを走った。そして、何食わぬ顔でリレーのバトンを受け渡した。あの日運動会で同じチームだった子たちも、先生も、親も、みんな私がずるしてリレー選手になったことは知らない。

それを実に15年以上も悔やんでいる。リレーは負けも勝てもしなかったけど、私は「50メートル走の記録を書き換えたヤツ」として、これからもあと60年くらいは生きるはずだ。

一生懸命応援してくれたともだちの顔、先生の顔とおかあさんの顔。ああ、ずるなんてするもんじゃないな。

もしも、子どもが生まれたら「お母さんはね、」と粛々と話そうと思っている。そしてその言葉に重みを持たせるため、これ以上の罪は重ねないつもりだ。今は大切にあたためている。

 

 

情報提供元:PORTFOLIO
記事名:「【ほしのうつつ】あの日の「ずる」