- 気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究 -

2024年3月29日
国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
SOMPOインスティチュート・プラス株式会社

気候変動に伴う長良川中流域の詳細な水害リスク変化の予測について - 気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究 -

 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学(所在地:岐阜県岐阜市 岐阜大学長:吉田 和弘、以下「岐阜大」)とSOMPOインスティチュート・プラス株式会社(本社:東京都新宿区 取締役社長:司波 卓、以下「SI+」)は、2022年4月から、気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究に取り組んでいます。昨年度の研究で、長良川中流域の気候変動に伴う洪水ハザードおよび氾濫・浸水パターンの大まかな傾向が把握された1 ことを受け、今年度は、洪水ハザードや氾濫・浸水の予測ケースを大幅に増やし、気候変動前後の水害リスクの詳細かつ定量的な分析を実施しました。

1.背景
 近年、企業による気候関連情報開示の重要性が高まり、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」だけでなく、気候変動下での被害を最小限に抑える「適応」への関心が高まっています。すでに気候変動に伴う自然災害の激甚化が指摘されており、行政のみならず企業でも将来への備えが求められています。
 将来の水害リスクに関しては、パリ協定の掲げる2℃目標が達成された場合でも、100年から200年に1回起きる大雨の規模(降雨量)が約1.1倍になり、河川の流量は約1.2倍に増加し、洪水の発生頻度は約2倍になると予測されています2。しかし、リスクの変化や被害には地域差があり、望ましい対処の仕方も地域によって異なります。今後は、それぞれの地域が気候変動への対応を長期的な地域課題として捉え、地域レベルの将来予測に基づき、地域に調和した適応策を検討することが重要だと考えられます。
 また、現在の水害リスク情報に関しても、一般的な洪水ハザードマップや水害リスクマップは安全側の情報となっているため、リスクの大きい地域と小さい地域のコントラストが弱く(真にリスクの大きい地域がわかりにくい)、個々の地点の浸水発生確率(頻度)が不明確といった課題があります。
 そこで、気候変動への対応という長期的な地域課題の解決に資するため、長良川中流域を対象地域として、気候変動による洪水ハザード変化等の地域レベルの予測、その変化が地域の浸水リスクや社会に与える影響の定量分析、さらには地域の特性に応じた適応策の検討等に取り組んでいます。

2.研究結果の概要
(1)気候変動による想定破堤点別・洪水波形別の水害リスク変化
 岐阜大学では、d4PDF 3 の降雨データ(過去実験3,000年分、2℃上昇実験3,294年分)をもとに洪水流出解析を行うと共に、岐阜市忠節基準点における時刻流量が年最大となる洪水を抽出して、年超過確1/50、1/100、1/200、1/500、1/1000に相当する洪水波形を各3ケース(計15ケース)選定しました。
 また、長良川中流域の地形や堤防等の配置をもとに氾濫ブロック(計7ブロック)の区分を行い、岐阜域の水害リスクに大きな影響を与える5つの氾濫ブロックを対象に、氾濫ブロックの大きさに応じて各 1 ~ 2箇所の破堤点(計 8 箇所)を想定しました(図表1)。その上で、2つの気候条件(現在気候下、2℃上下)、5つの洪水規模(年超過確率1/50、1/100、1/200、1/500、1/1000)、3つの洪水波形、8箇所の破堤点という全240のケースを想定し、ケースごとに氾濫・浸水シミュレーションを実施して、この地域で予測される様々な条件下での浸水深や流速に関する情報を25mメッシュレベルで明らかにしました。

図表1 氾濫ブロックと破堤点の想定(長良川中流域)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O11-mGn4V6DX
 SI+では、岐阜大による氾濫・浸水シミュレーション結果を、事前に準備した25mメッシュレベルの推計人口や推計資産評価額等の情報4 と重ね合わせて分析することにより、浸水に伴う人的・経済的な被害指標の詳細な分析5や地域全体としての被害量の集計、気候変動による影響評価を行いました。
 その結果、8か所の破堤点のうち1箇所が破堤するという8つの破堤シナリオのすべてにおいて、次のことが判明しました(図表2)。
①2℃上昇下(図の赤丸)では、直接被害額6が現在気候下(図の青丸)に比べて大幅に増加する。
②2℃上昇下では、洪水の年超過確率と直接被害額との関係に、現在気候下ではみられない急変点
(ティッピングポイント)が現れる。
 また、気候変動による影響の大きさを表す「変化倍率」(2℃上昇下/現在気候下)については、次のような結果が得られました(図表3)。
①直接被害額の変化倍率(1.2~5.8倍)は河川流量の変化倍率(1.08~1.16倍)を大きく上回る。
②年超過確率1/1000(低い発生頻度だが大規模な浸水)での変化倍率は特に大きい。
③年超過確率1/50(浸水は小規模だが高い頻度)での変化倍率は年超過確率1/100に比べて大きい。

図表2 洪水規模と被害額の関係
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O16-hHdbIFe0

図表3 破堤点別・洪水規模別の変化倍率
※変化倍率とは2℃上昇下の値を現在気候下の値で割ったもの
※各倍率は3つの洪水波形から得られた結果の平均値
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O14-rNzndcc7

(2)気候変動による地域全体の水害リスク変化
 気候変動による水害リスク変化を地域全体として評価するため、洪水波形別および想定破堤点別に 推計された被害額の全分析結果(図表4)を、母集団からサンプリングされた標本データとみなして統計解析し、被害額とその発生確率の関係の定量化を試みました7(図表5)。なお、各破堤点の破堤しやすさは同一と仮定し、各破堤点の位置する氾濫ブロックの堤防区間長に比例して重みづけしました。

図表4 洪水規模と被害予測額の関係(全計算ケース)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O15-nA0woixd

図表5 被害予測額と発生確率の推定結果
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O13-cCl0PTXr

 その結果、気候変動による水害リスクの変化として、この地域の場合、次の2点が予測されます。
①経済的被害の規模とその発生確率は2℃上昇により大幅に増加し(図表5ではグラフが右下方向へ移動)、例えば、100年に1回の頻度で発生する経済的被害(直接被害額)は、現在気候下では3千7百億円規模だが2℃上昇下では5千8百億円規模となり、1.6倍に増加する。
②人的被害(ここでは、事前の避難率が0%という条件での想定死者数)についても被害の規模とその発生確率は2℃上昇により大きく増加し、例えば、200年に1回の頻度で発生する人的被害(想定死者数)は、現在気候下だと100人規模だが2℃上昇下では180人規模となり、1.8倍に増加する。

(3)気候変動による個々の地点の浸水リスク変化
 前項と同様の方法を用いて、地点ごとの最大浸水深とその発生確率の関係を、本共同研究の特徴である詳細な地点ごと(25mメッシュレベル)に分析することによって、地点別の浸水リスク変化の定量的な予測・分析を試みました(図表6)。得られた結果のうち、次の2点が特に重要だと考えられます。
①最大浸水深と発生確率の関係は浸水域内で一様ではなく、地点ごとに様々なパターンがある。
②本地域では、2℃上昇によって主に最大浸水深が増加する地点(左側のグラフ)と、確率(頻度)が増加する地点(右側のグラフ)の両方があり、両地点では適応戦略が異なったものになる。

図表6 個々の地点の定量的な浸水リスクと気候変動による特徴的な変化パターン
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O12-376B2o6R

 通常の水害リスク情報(降雨や洪水の規模と最大浸水深を組み合わせた情報)には、ある発生確率(頻度)の降雨時に個々の地点で想定され得る最大浸水深が示されています。しかし、その最大浸水深が、そのような規模の降雨があれば毎回発生するのか、そのような規模の降雨があったとしてもごく稀にしか発生しないのか、すなわち、個々の地点の定量的な浸水リスクは明示されていません8。このため、今回のような地点別の定量的な浸水リスク情報は、具体的な浸水被害軽減対策の設計・費用対効果の検討に、これまでにない有用な情報となる可能性があります。

(4)適応策に関する検討
 気候変動により水害リスクが増大した場合、堤防の整備といった対策だけで河川の氾濫を完全に防ぐことは難しいと考えられており、氾濫の発生に備えた対策、すなわち土地利用や住まい方の工夫といった、被害対象を減らすための対策が重要になります9。そこで、前項までの結果をもとに、適応策として後者の対策を実施した場合の効果を試算しました。取り上げた対策は、住宅の場合、既存文献10を参考にして、高床化(1階床高を地上1.5mにする)、修復容易化(床下浸水時の修復コストを低減)11、域外移転12の3種類とし、店舗・事務所や工場等の場合、0.5mの止水板と1mの止水板の2種類としました。
 浸水範囲内のすべての戸建住宅や事業所で対策を実施できた場合を仮定して、適応策として期待し得る最大限の効果(ポテンシャル)とその場合の費用対効果を概算し、次のような結果を得ました(図表7、図表8)。次年度は、より現実的な条件でこの地域での適応策の実施可能性を検討していく予定です。
①効果は対策により異なるが、現在気候下における洪水被害軽減効果は共通して期待できる。
②戸建住宅向けの高床化と修復容易化の費用対効果は同程度で、域外移転に比べて大きい。
③事業所向けの止水板は50cmだと費用対効果が小さく、止水板の仕様は100cm前後が必要になる。

図表7 適応策のポテンシャルの定量化例
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O18-HPtI2nii

図表8 適応策の費用対効果(概算)の比較
※ここでの費用対効果は、被害軽減額(名目値)/対策費用(名目値)であり、現在価値化後の値ではない。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202403298778-O17-8CtircwN

3.今後について
 次年度は、気候変動適応策の実現可能性に関する経済性の観点を含めた具体的な検討等に取り組み、中長期的なまちづくりと気候変動適応策のベストミックスに向け、さらに研究を進めていく予定です。
 以 上

1 岐阜大学、SOMPOインスティチュート・プラス共同プレスリリース(2023年3月)< https://www.sompo-ri.co.jp/wp-content/uploads/2023/03/20230330_News-Release-SOMPO-Institute-Plus.pdf >
2 国土交通省「「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な「流域治水」への転換~ 答申 参考資料」, p40
3 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース「d4PDFとは」< https://www.miroc-gcm.jp/d4PDF/about.html >
4 25mメッシュデータの推計では、国勢調査等の250~500mメッシュの統計情報のほか、国土交通省「3D都市モデル(Project PLATEAU)」を利用した。人口の推計方法は、Insight Plus「3D都市モデル等のオープンデータを活用した高解像度メッシュ人口の推計」(2023年4月)<https://www.sompo-ri.co.jp/2023/04/28/8016/>を参照のこと。
5 被害指標の分析方法や被害率等の考え方は、国土交通省「治水経済調査マニュアル(案)」(令和2年4月)、国土交通省「水害の被害指標分析の手引」(H25 試行版)を参考にした。
6 ここでの直接費被害額とは、建物(住宅、事業用、官公庁)被害額、家庭用品(自動車以外、自動車)被害額および事業所償却・在庫資産被害額の合計であり、農業関係被害、公共土木施設等被害は含まれない。
7 簡易定量分析法の概要については、Insight Plus「洪水浸水想定区域図のシミュレーションデータを利用した定量的浸水リスクの簡易分析法」(2024年3月)< https://www.sompo-ri.co.jp/2024/03/15/11558/ >を参照のこと。
8 前脚注7, p2~3
9 国土交通省「「流域治水」の基本的な考え方」,p7
10 建築研究所「建築物の浸水対策案の試設計に基づくその費用対効果に関する研究」(2023年1月)
11 高床化、修復容易化対策の詳細については、前脚注10のp45~48, p37~41, p52~59を参照のこと。
12 ここでの移転のコストは、住宅解体費と移転先での新築費用のみとし、移転先の開発・造成費用を含んでいない。

情報提供元:PRワイヤー
記事名:「気候変動に伴う長良川中流域の詳細な水害リスク変化の予測について