東京大学と積水ハウス、生物多様性と健康に関する共同研究についての最新分析結果を発表

2024年7月9日
積水ハウス株式会社

 国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科と積水ハウス株式会社は、生物多様性と健康に関する共同研究結果について最新の分析内容を発表しました。

 

 本共同研究は、「5本の樹」計画による生物多様性豊かな庭における身近な自然とのふれあいが、居住者の自然に対する態度・行動及び健康に及ぼす影響を総合的に検証するため、東京大学大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授と積水ハウスが2022年12月より行っているものです。今回の研究にあたり行った、庭における詳細な種レベルの樹木データと居住者の方へのアンケート調査を紐づけた分析は、世界初の試みとなります。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407053235-O2-5VALzxor

 

 

【分析内容】

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M100045/202407053235/_prw_PT1fl_941hUyd8.png

 

 今回の分析により、在来種を中心とした植栽に囲まれた家に住み、庭に訪れる様々な生きものとよくふれあう人は、鬱(うつ)症状の発症リスクが20pt低く、高い幸福感や日々の生活の充実感を持つことが分かりました。また、そういった人は自然の価値をより認識し、より高い環境配慮意識を持つことも分かりました。

 

 東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻保全生態学研究室(*¹)では、都市の生物多様性の保全や自然の恵みの評価をはじめとした「人と自然のかかわり」に関する先進的な研究を行っています。

 

 積水ハウスは2001年から生物多様性保全の取り組み(*²)として、お客様のご協力のもと、生態系に配慮した造園緑化事業「5本の樹」計画を推進してきました。“3本は鳥のために、2本は蝶のために”という思いを込め、その地域の気候風土にあった在来樹種を中心とした庭づくり・まちづくりを提案しています。この取り組みにより蓄積された樹木本数・樹種・位置情報のデータと生物多様性ビッグデータを用いて、「5本の樹」計画による在来種を中心とした植栽の生物多様性保全効果の実効性を定量評価することができました。

 

 今回の研究にあたっては、「5本の樹」計画を採用いただいた首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)および京都・大阪・愛知にお住まいの積水ハウスのオーナー様を対象としたウェルビーイングや環境配慮意識に関するアンケート結果と、土地利用(周辺の緑地面積など)及び当社が持つ樹木本数・樹種・位置情報のデータを紐づけて変数間の関係性を分析しました。

 

(1)在来種を中心とした植栽によるウェルビーイングの向上

 今回の分析で、庭の在来樹種数が増えることで多様な生きものを呼び込み、敷地内での生きもの(鳥・昆虫)とのふれあい頻度が高まり、それが住まい手のウェルビーイングの向上(幸福感・人生の充実度の向上、鬱症状の低下)に寄与し得ることが分かりました。

 ウェルビーイング向上の程度を詳しく見ると、例えば鬱症状の場合、身近な生きもの(主に鳥)を見たり鳴き声を聞いたりする頻度が「全くない」から「よくある」に増加すると、鬱症状の発症リスクが54%から34%に減少する(20pt減る)ことが推定されました。鬱症状は様々な環境・社会経済的要因に影響されるため、この変化が住まい手個人のウェルビーイングに与える影響は決して小さくありません。

 こうした効果は住まい手個人だけでなく社会的にも重要です。例えば、日本における鬱病性障害の疾病費用は、医療費に加え非就業費用等の間接経費も含めると、年間約3.1兆円(*³)と推定されています。生きものとのふれあいによる鬱症状の発症リスク低減効果はこれらの疾病費用削減にもつながるため、大きな経済効果を持ちます。

 

(2)在来種を中心とした植栽による環境配慮意識の高まり

 さらに(1)と同様に、庭に植えられている在来樹種数が増えることで、身近な生きもの(主に昆虫)を見たり声を聞いたりする頻度が高い人ほど、自然の価値をより認識したり高い環境配慮意識を持つことも推定されました。こうした意識の変化は環境保全に対する前向きな行動にもつながり得ることから、国内外の環境保全政策(生物多様性国家戦略等)が推進する行動変容・社会変革に向けた重要なステップとなり得ます。

 

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図1. 庭における在来種を中心とした植栽によるウェルビーイングおよび環境配慮意識の向上

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407053235-O4-R9kSKZMV

図2.(左)身近な生きもの(鳥)とのふれあいが鬱症状の発症リスクに及ぼす影響

(右)身近な生きもの(昆虫)とのふれあいが環境配慮意識に及ぼす影響

(縦軸は自然破壊への懸念を示す回答選択肢を選んだ確率)

 

 

(3)花や実などの多様さによるウェルビーイングの向上

 (1)の分析から、在来種の増加は、身近な生きものとのふれあいを介してウェルビーイングに作用することが分かりました。現在、この分析をさらに発展させ、多様な樹木を庭に植えることがウェルビーイングにもたらす直接的な影響を調べるために、植物の形質とウェルビーイングの関係を調べています。今回のアンケートに協力いただいた物件の樹木データを用いて、樹種それぞれの植物形質の一部を抽出して検証を行っており、これまでのところ、年間を通した花の総開花時期が長い庭や食用の実が豊富な庭に住む人は、ウェルビーイングが高まることが示されています。現時点では予備検証段階ですが、今後もより多様な形質(花の香りや色等)を考慮した分析を行い、ウェルビーイングの向上に最適な植栽の在り方を検討してまいります。

 

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図3. 花や実などの多様さによるウェルビーイングの向上






 今回の分析結果により、庭に在来種を中心とした多様な樹木を植えることが人々の健康や幸福、さらには環境保全意識の醸成を介して長期的な環境保全にも貢献し得ることが分かりました。

この結果は、これまで生態系保全の文脈で重要視されていた自然保護区や里山的な環境のみならず、私たちが普段生活している「都市」の生物多様性が、ウェルビーイングや環境教育といった目に見えない機能(生態系サービス)を介して自然共生社会の実現に貢献することを示す重要な成果です。

 

 東京大学大学院農学生命科学研究科曽我研究室と積水ハウスは今後も引き続き共同研究を行い、身近な自然とのふれあいが、人の自然に対する態度・行動及びウェルビーイングに及ぼす影響を科学的に検証し、社会に共有することで、都市部の生物多様性保全の推進とネイチャー・ポジティブな社会の実現への貢献を目指します。





●東京大学大学院農学生命科学研究科について

 東京大学大学院農学生命科学研究科では、農学を構成する応用諸科学に関する専門教育を段階的・体系的に行い、食料・資源・環境等の問題の解決に必要な高度の専門知識と幅広い視野を有し、社会・文化・産業活動を通じて地球社会の要請に応えることのできる洞察力・実践力・指導力を備えた人材を育成することを目的に教育研究活動を行っています。

 

●積水ハウスの「5本の樹」計画について

 「5本の樹」計画は、積水ハウスが2001 年から生物多様性保全の取り組みとして、お客様のご協力のもと、生態系に配慮した造園緑化事業として開始したプロジェクトです。“3本は鳥のために、2本は蝶のために”という思いを込め、日本古来の里山をお手本として、その地域の気候風土にあった在来樹種を中心とした庭づくり・まちづくりを提案しています。2001年の事業開始からの累積植栽本数は2,000万本を達成(*⁴)。2021年には、生物多様性保全効果の実効性を、樹木本数・樹種・位置データと生態系に関するビッグデータを用いて、世界で初めて都市の生物多様性の定量評価の仕組みを構築し、「ネイチャー・ポジティブ方法論」(*⁵)として公開しました。

 

*¹ 東京大学大学院農学生命科学研究科 曽我研究室:https://www.masashi-soga.com/

*² 積水ハウス 生物多様性保全の取り組み:https://www.sekisuihouse.co.jp/gohon_sp/

*³ 出典「精神疾患の社会的コストの推計」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/dl/seikabutsu30-2.pdf

*⁴ 2024年4月時点で2,071万本達成

*⁵ 積水ハウス「ネイチャー・ポジティブ方法論」:https://www.sekisuihouse.co.jp/gohon_sp/method/

情報提供元:PRワイヤー
記事名:「「5本の樹」計画の在来種中心の植栽がウェルビーイングの向上に寄与