「亜熱帯モード水」は、海面から鉛直に数百メートルにわたって水温がほとんど変わらない層のことで、冬季に黒潮続流の南で形成されます。亜熱帯モード水の厚さの増減が、最新の研究で、海面付近の水温を通じて台風の発達・減衰に影響していることが発見されました。亜熱帯モード水の形成は、冬の季節風が関係しています。

●「亜熱帯モード水」とは?

海洋の水温は、海面から深さ約1㎞まで、深さとともに大きく低下します。ただ、海域によっては、その中に、深さ数百mにわたり水温がほとんど変わらない層が存在します。このような層を「モード水」と呼びます。
日本の南には、黒潮および黒潮続流が東向きに流れています。この南側の海域では、冬季、黒潮が南から運んできた暖かい水が北西の季節風で冷やされ、海水は、海面から深さ500m以上にわたって、鉛直にかき混ぜられます。その結果、冬の終わりには、鉛直方向に水温が16~19℃の一様な層ができます。これが「亜熱帯モード水」です。

一番上の図は、冬季季節風による海面冷却と亜熱帯モード水の形成域・分布域です。赤線で囲まれた領域が、亜熱帯モード水の平均的な分布域です。
矢印は、冬季の風の分布の表します。寒色系の陰影は、冬季に海洋から放出される単位時間当たりの正味の熱量を表します。負の値が大きいほど海洋から多くの熱が放出され、海洋がよく冷えていることを意味しています。黒の太線は、黒潮及び黒潮続流の平均的な位置を表します。青線で囲まれた領域は、冬季に海洋表層の混合層が125mよりも深くまで発達する海域を表します。

●「亜熱帯モード水」 2015年頃をピークにその後は大きく減少

上のグラフは、東経137度線における夏季の亜熱帯モード水の断面積の変化です。
2015年頃をピークに、その後は2017年に始まった黒潮大蛇行の影響で大きく減少しました。
亜熱帯モード水の断面積は、ピークの頃の2015年は177.0k㎡であるのに対し、その後の極小である2021年は5.1k㎡です。

●「亜熱帯モード水」が薄いと海面水温が上昇 台風を強めることに

亜熱帯モード水の厚さの増減が、最新の研究で、海面付近の水温を通じて台風の発達・減衰に影響していることが発見されました。

亜熱帯モード水が厚くなるほど、海洋表層の鉛直方向の水温の構造が持ち上げられて、海面水温を冷やします。このことが台風を弱めることに関係しているということです。逆に、亜熱帯モード水が薄いと、海洋表層の鉛直方向の水温の構造が持ち上げる効果が弱くなり、温暖化に伴う海面水温の上昇が示唆されています。このことは、台風を強めることに関係しているとのことです。

参照:東京大学ホームページ
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2023/20230914.html

●2022年 台風14号 上陸時の中心気圧が記録的に低くかった

亜熱帯モード水の断面積は、2015年頃のピーク以降、極小になった2021年の翌年2022年は16.2㎢で、薄い状態が続いていました。

2022年9月18日19時頃に、鹿児島県鹿児島市付近に台風14号が上陸。上陸時の中心気圧は940hPaで、統計開始の1951年以降、上陸した台風としては、中心気圧が低い方から5番目と、記録的に発達した台風でした。

●亜熱帯モード水がピーク頃の2015年と極小になった2021年 冬の季節風はどうだった?

前述したように、亜熱帯モード水の形成は、冬の季節風に関係しているとのことですので、亜熱帯モード水がピークの頃の2015年と、その後の極小となった2021年の冬の天候をみてみました。

【2014/2015年の冬】
12月を中心に冬型に気圧配置になる日が多く、日本海側を中心に大雪になりました。四国でも、山間部で大雪になり、多数の車が立ち往生するなど、影響が出ました。東日本では4年連続の寒冬になりました。季節風が吹きやすかったことがわかります。

【2020/2021年の冬】
冬の前半は冬型の気圧配置が強まった時期がありましたが、後半は低気圧が北日本付近を通過しやすく、南高北低の気温が上がる気圧配置になるなど、東日本と西日本、沖縄・奄美で暖冬になりました。2月4日に関東地方で最早記録の春一番が吹くなど、冬の後半は季節風が吹きにくかったことがわかります。